小学校に上がる頃まで、銭湯で頭を洗われるのが嫌いだった。石鹸が目に沁
みるのだ。今風のシャンプーハットなどなかったし、買える時代でもなかった。
もっと小さい頃は、仰向けでお湯を流して貰ったので、目に石鹸は入らなかっ
たが、4~5歳になるとそうはいかない。椅子代わりの裏返した洗い桶に座わ
らされて、前から頭を洗われた。目をぎゅっとつぶっても、お湯をかけられる
のは苦手だった。一人で洗えるようになって、シャワーも普及してからは、ど
うにか克服できた。今では、頭は毎日洗わないと気持ちが悪い。
最近、シャンプーが長持ちすると感じている。シャンプーの減り方と髪の毛
の量は比例するようだ。そういえば、昭和20年代は、女性が髪の毛を洗うと
き、別料金を払ったと記憶している。日本髪を結っている人が多く、お湯を大
量に使うからだと思う。うちの祖母ちゃんがそうだった。洗い場に、晒しの腹
巻を巻いてパンツ一丁のいなせな三助さんがいて、髪の毛を洗うのを手伝って
くれた。三助さんは、近所のご隠居さんの肩を揉んだり、背中を流したりして
いた。昭和の銭湯文化の名残りである。平成の今はもういない。
文:石川義夫(足立区副区長)